愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
彼女の存在
翌日、英梨さんが来て10分ほど経った頃にケーキを持ってやって来た吉野は、英梨さんを見て顔をしかめた。

面倒なことになる前に、俺は英梨さんにお茶と一緒にケーキを出してくれと頼みながら吉野を彼女だと紹介し、吉野には英梨さんを家政婦だと紹介した。

そしていつものようにリビングで勉強しようとすると、吉野は俺のシャツの裾を引っ張った。

「ねぇ三島くん、二人でゆっくり話したいこともあるから、三島くんの部屋に行きたいな」

部屋の中で二人きりで何をしてるんだとか、英梨さんに勘ぐられたりはしないだろうか。

吉野が二人きりで話したいことがなんなのかも気になったけど、英梨さんにどう思われるかの方が気になった。

「俺の部屋には二人で勉強できるようなテーブルがないから、ここで勉強したいんだけど……。それに話くらいはここでもできるよ」

俺がそう言うと、吉野は不服そうな顔をした。

吉野のその顔を見て、俺は太一に言われた“吉野にも優しくしてやれば”という言葉を思い出す。

どうすれば吉野の期待に応えられるのかなんてわからないけど、ここは俺も少し譲歩した方が良さそうだ。

「じゃあ……とりあえずしばらく勉強して、昼食済ませて、俺の部屋に行くのはそれからにしよう」

「うん……わかった」

< 30 / 82 >

この作品をシェア

pagetop