愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
俺と吉野がリビングのテーブルに勉強道具を広げ始めると、英梨さんは遠慮がちに掃除を始めた。

「英梨さん、しばらく勉強して昼飯済んだら自分の部屋に行くから、リビングの掃除はその間にしてもらっていい? あと、昼飯は二人分でよろしく」

「わかりました」

英梨さんはいつもと違う事務的な受け答えをして、別の部屋を掃除するためにリビングを出ていった。

吉野は少し顔を上げて、掃除道具を持った英梨さんの後ろ姿をチラッと見た。

「あの家政婦さん、いつも来てるの?」

「ああ……平日の昼間の3時間くらいかな」

「ふーん……。三島くん、きっと私といるよりあの人と一緒にいる方が長いね」

英梨さんは仕事で来ているんだし、俺が英梨さんを選んだわけでもないのに、そんなことを言われても困る。

吉野も太一と同じで、俺と英梨さんの仲を疑っているのではないかと思うと少しの苛立ちを覚えた。

「……疑ってるのか?俺と英梨さんの間に何かあるんじゃないかって」

「疑ってるわけじゃないけど……」

「言っとくけど、吉野が心配してるようなことは一切ないから」

俺がキッパリと言い切ると、吉野はそれ以上何も言わなかった。

彼女とそれ以外の女の子との線引きはお互いの認識だけだと思ってきたけれど、俺にとってはそれでじゅうぶんでも、吉野にとってはそれだけでは足りないのかも知れない。


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