愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
それからしばらくして英梨さんは昼食の準備を始めた。

俺と吉野が勉強していると、英梨さんは俺のそばに来て肩を叩く。

「潤くん、勉強中に申し訳ないんだけど……脚立か踏み台があったら貸してもらえる?」

「そんなものどうするの?」

「棚の上の方にあるお皿を取りたいんだけど、手が届かなくて……」

「ああ……いいよ、俺が取るから」

立ち上がって英梨さんと一緒にキッチンへ行き、どの皿かと尋ねると、英梨さんは棚の一番上の段に置いてある皿を指さした。

英梨さんの背後から手を伸ばしたとき、ほのかにいい香りがした。

それは吉野や他の同級生の女子がよくつけている、むせかえるような甘い香りではなく、柑橘系のような爽やかで心地よいものだった。

甘い香りで女であることをあからさまにアピールしないところが、大人の女性という感じがする。

そんなことを思いながらその皿を取って渡すと、英梨さんは「ありがとう」と言って笑った。

「もうすぐ用意できるから、きりのいいところで勉強切り上げてね」

「わかった、ありがとう」

< 32 / 82 >

この作品をシェア

pagetop