愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
食事が済んで少し経った頃、吉野がソワソワし始めた。

俺が部屋へ行こうと言うのを今か今かと待ち構えているのだろう。

アイスコーヒーを飲み干して席を立つと、吉野は目を輝かせて俺を見上げる。

何をそんなに期待しているんだ。

家の中には英梨さんもいるし、二人きりになっても俺は吉野に何もする気はないと言うのに。

もし英梨さんがいなかったとしても、それは同じことなのだけれど。

「それじゃあそろそろ、俺の部屋に行こうか」

「うん」

吉野は嬉しそうな顔をして立ち上がる。

俺は英梨さんにコーヒーを持って来てくれるように頼んで、吉野を部屋へ連れて行った。

吉野は俺の部屋に入ると、物珍しそうにキョロキョロと部屋の中を見回した。

「きれいにしてるんだね。いつも掃除は家政婦さんにしてもらってるの?」

「いや、自分の部屋の掃除くらいは自分でするよ。見られて困るようなものもないけどな。その辺適当に座って」

俺がそう言ってベッドの前に座ると、吉野は俺の隣に座った。

……近いな。

何もこんな近い場所に座らなくても、座る場所なんていくらでもあるのに。

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