愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
「それで?何か話したいことがあるんだろ?」

俺が本棚の中の倒れた本を直すふりをしながら少し離れると、かすかに顔をしかめてその距離をさらに詰めた吉野からは甘ったるい香りが漂ってきた。

「話したいことがあるっていうか……三島くんともっといろいろ話したいなぁと思って」

「いろいろって?」

「たいしたことじゃなくていいんだけど……そうだ、中学の卒業アルバムとか見せて欲しいな」

吉野は高校からの外部入学で、中学生の頃の俺を見たことがないから見てみたいと言う。

「たいして面白くないと思うけどな」

「いいの、それでも見たいの」

「ふーん……別にいいけど……」

立ち上がって本棚の一番上の段から中学の卒業アルバムを引っ張り出して渡すと、吉野が一緒に見ようと俺に隣に座るように促すので、しかたなく隣に座ってアルバムを覗く。

吉野はクラス写真の真ん中の列に今より少し幼い顔立ちの俺の姿を見つけて、今の俺と写真の俺を見比べた。

「中学の頃はあまり大きくなかったんだね」

「それでもバレー部ではエースだったんだぞ。その写真を撮った後に急激に背が伸びたんだよ。卒業式のときは制服がかなりきつかった」

吉野はアルバムに俺の姿を見つけては、写真を指さして嬉しそうに笑う。

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