愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
ページをめくるごとに俺と吉野の距離が物理的に近くなっていることに気付いた。

さっきまでは少なくとも30センチくらいの間隔があいていたと思うのに、いつの間にか吉野の肩が俺の腕に今にも触れそうなところまで近付いている。

そして写真を見ながら俺の腕に触ったり、俺の目を覗き込むようにして見上げたりした。

これは恋人として俺との距離を縮めたいというアピールなのかな。

太一が言っていたように、期待に応えて肩くらいは抱いてやるべきなのか、それとももう少し先に進むべきなのか?

そうすれば少なくとも吉野だけは、俺を好きでいてくれるのではないか。

そんなことを考えていると、ドアをノックする音がした。

「お茶をお持ちしました」

ドア越しの英梨さんの声を聞いた途端、我に返る。

吉野を本気で好きでもないのに、俺を好きでいて欲しいなんて言ういい加減な気持ちで手を出すなんてあり得ない。

ドアを開けてアイスコーヒーとお茶菓子を受け取ると、英梨さんはチラッと部屋の中を見て少し不機嫌な表情で俺の顔をじっと見つめた。

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