愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
「……なに?」

「いえ、別に何も。私、リビングの掃除が済んだら買い物に行きます。アイスコーヒーのおかわりが必要でしたら、冷蔵庫の中に入れてありますので」

英梨さんの声はとても冷ややかで、俺は暑くもないのに背中にいやな汗がにじむのを感じた。

「ああ、うん……ありがとう……」

アイスコーヒーとお茶菓子の乗ったトレイを持って振り返ると、吉野はいつの間にか羽織っていた薄手の上着を脱いでいた。

上着を着ているときには気付かなかったけど、胸元があいたミニスカートのワンピースは、男を誘うために作られているとしか思えない。

「暑いの?クーラーの温度下げようか?」

ガラスのローテーブルにトレイを置いて、ベッドの上に置いてあったエアコンのリモコンに手を伸ばそうとすると、吉野はそれを遮るように俺の腕をつかんだ。

「大丈夫、上着脱いだから」

吉野がそう言った瞬間、さっきの英梨さんの不機嫌な表情を思い出した。

もしかしたら英梨さんは、俺が吉野の服を脱がせたと勘違いしたんじゃないだろうか?

二人きりで部屋にこもっていやらしいことをしているなんて、英梨さんには思われたくない。

俺もさっきはあり得ないことを考えていたし、吉野が妙な気を起こさないうちに、さっさとコーヒーを飲んでリビングに戻った方が良さそうだ。

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