愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
父が離婚届を突き付けて俺の親権は絶対に渡さないと言うと、母は「そんなもの要らない。私は最初から子どもなんて欲しくなかったのに、結婚したからには後取りを産めって親がうるさいから仕方なく産んでやったのよ。感謝して欲しいくらいだわ」と俺の目の前で言い捨て、俺にもこの家にもなんの未練もない様子で、新しい男を迎えに来させて出ていった。

そんなことがあったからか、それ以降は父が家にいる時間が増え、ときには学校行事や部活でやっていたバレーの公式戦にまで顔を出してくれたりもした。

多忙な身でありながら、きっとかなり無理をして時間を作ってくれていたのだと思う。

結局母親の愛情というものを一度も感じることはなかったけれど、父は必死で父親であろうとしてくれたし、道代さんは以前よりもさらに俺と父のことを気遣い、甲斐甲斐しく身の回りの世話をしてくれた。

しかし俺の成長と共に道代さんも高齢になり、日に日に体力が衰え、俺が高校3年生のときに病を患って退職せざるを得なくなった。

遠方に住む息子夫婦が面倒を見てくれると言って、道代さんは最後まで俺のことを心配して涙ながらに去っていった。

道代さんはいつも俺の心配ばかりして、病気になったときはつきっきりで看病してくれたり、学校行事で弁当が必要なときには朝早くから弁当を届けてくれたり、実の母親よりよほど母親らしかったと思う。


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