愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
この状況でどれだけ言い訳したって無駄だってわからないのかな。

何も言わずに別れてやろうと思っていたけれど、俺も吉野の本音を聞いたことだし、吉野にも俺の本音を聞かせてやるのがスジってもんだろう。

「いまさら言い訳しても無駄だ、全部聞こえてたから。 俺は吉野がしつこいからしかたなく付き合ってやってたけど、吉野のことなんか全然好きじゃないから触りたくもなかっただけ。無理してやんなくて良かったわ。今からその男と行くんだろ?好きなだけやってもらえよ。じゃあな」

俺が店を出て足早に歩いていると、英梨さんが小走りに俺のあとを追いかけて来る。

「潤くん、待って!」

俺を好きだと思ってた女にかげであんなこと言われているところに一緒に居合わせたなんてカッコ悪くて、こんな情けない顔を見られたくなくて、英梨さんの声が聞こえているのに俺はペースを落とすことなく歩き続ける。

「潤くん!」

追いかけてきた英梨さんは俺の腕をつかんだ。

「ごめん、さすがにちょっとカッとなってて……ひとりになって頭冷やしたいんだ。俺は先に帰ってるから、英梨さんはゆっくり帰ってきていいよ」

無理に作り笑いを浮かべてそう言うと、英梨さんは何も言わずにうなずいて手を離した。

本当は英梨さんも俺のことをつまらない男だと思っているから、何も言えなかったのかも知れない。



< 49 / 82 >

この作品をシェア

pagetop