愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
家に帰るといつもはリビングで一息つくけど、今日はそのまままっすぐ自分の部屋に入った。

エアコンをつけて鞄を床に置き、制服のネクタイを外してベッドに倒れ込む。

昨日の吉野の言葉は全部嘘だったんだと思うと、吉野を傷付けないように精一杯気を遣っていたことがバカらしく思えた。

俺は誰と付き合ってもうまくいったことがないから、好きになってくれた相手に本気で恋をして、彼女を大事にしたいと素直に言える太一が、正直言うと心底うらやましい。

やっぱり実の母親からも愛されなかった俺を本気で好きになってくれる人なんて、いないのかも知れない。

そして愛されることを知らない俺自身も、きっと誰も愛せない。

俺のそういうところが、誰にとってもつまらないんだと思う。

そんな俺に一番嫌気がさしているのは、ほかでもない俺自身だ。

とにかく今はどうしようもなく虚しくて、砂漠みたいにカラカラに渇いた心に、誰でもいいから愛情という名の水を注いで、いっぱいに満たして欲しいと思ってしまう。

俺を好きだと言ってくれるなら、相手は吉野でも他の誰でも良かったんだ。

だから本当のことなんか知りたくなかった。

嘘でもいいから、誰か俺のことを好きだと言って安心させて。

そうすれば俺は明日からも、自分の足で立って歩くことができるはずだから。


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