愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
そんな生活を続けているうちにあっという間に夏休みが終わり、授業が終わって学校から帰ると夕方で、英梨さんとは入れ違いになることが増えた。

少し早く授業が終わって家に帰っても、うちでの仕事を終えて次の仕事に行こうとしている英梨さんとほんの数分顔を合わせてキスをする程度で、二人でゆっくり過ごすことができなくなった。

そうなると一緒にいる時間が長かったときには満たされていた俺の“愛されたい”という気持ちは満たされず、どんどん欲求不満になっていく。

仕事以外の時間でも毎日俺に会いに来てくれないかな。

そうすればずっと心も体も満たされて安心していられるのに。

そんなことばかり考えるようになり、勉強も手につかなくなった。

極端な話、好きだと言って抱きしめてくれるならセックスなんかしなくてもいい。

体で感じる快楽よりも、愛されていることの安心感に溺れて自分がするべきことをおろそかにしていた俺は、2学期が始まって1週間後の学力テストで大打撃を食らうことになった。

これまでは志望校に手が届く場所にいたのに、愛情を求めて自分を見失っている間に、志望校は手を伸ばしても届くかどうかわからないようなところまで遠のいていた。

さすがに危機を感じた俺は、必死で勉強してなんとか遅れを取り戻そうと足掻いた。

それでも心の中ではやっぱり英梨さんに会いたいとか、今すぐ抱きしめて欲しいとか、一晩中全身で俺を求めて好きだと言って欲しいと思ったりしていた。

けれど今までの努力を無駄にしたくはないから、煩悩まみれになりながらもなんとか己を奮い起たせた。

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