愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
土田さんの話を要約すると、英梨さんは俺と出会う前にはすでに親のために結婚することが決まっていたんだ。

英梨さんは婚約者を裏切り、俺を好きだと言って関係を持った。

そして俺には本当のことは何も言わず黙って姿を消し、俺のことも裏切って、きっと何食わぬ顔をして好きでもない男と結婚するんだろう。

もしかしたら俺を好きだと言っていたのも、一時の気の迷いとか、愛を知らないかわいそうな子どもを放っておけなかったとか、望まぬ結婚の前の最後の恋愛ごっこのつもりだったのかも知れない。

なんにせよ、俺だけを心の底から愛してくれる人なんて、どこにもいないということだ。


それからの俺は英梨さんのことを忘れようと勉強に没頭し、10月の下旬には無事に志望校の推薦入試に合格した。

目標を失った途端、からっぽでつまらない俺の毎日は虚しくなって、友達と遊んでいてもバレー部に顔を出して後輩に混ざって練習していても、とにかく何をしても楽しいとは思えなかった。

彼女でも作ったらどうかと友達が女の子を紹介してくれようともしたけれど、とてもそんな気にはなれなかった。

紹介を断りきれずに俺を好きだと言う他校の女子と付き合い出しても、前と同じでまったく本気になどなれず、短期間で相手に別れを切り出されて終わった。

そんなことを繰り返しているうちに、無理して人と関わって楽しんでいるふりをすることにも疲れてきて、学校に行く以外は家に引きこもるようになった。




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