愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
「そうだなぁ……。玲司、今日はピザで我慢しろ。オムライスはまた明日な」

「……うん」

玲司がしょんぼりしてうなずくと、リモコンでテレビのチャンネルを変えていた志岐が俺の肩を叩いた。

「ほら見て潤くん、ちょうどこれからオムライス作るって」

テレビでは超初心者向けの料理番組が流れていて、若い女性タレントがベテラン女優に教わりながら、四苦八苦してオムライスを作っていた。

その若い女性タレントの髪型や背格好がなんとなく英梨さんと似ていて、そういえば英梨さんが初めて俺に作ってくれた料理はオムライスだったことを思い出した。

英梨さんは今、どこでどうしているんだろう。

結婚して初めての大晦日は年越しそばなんか作って、結婚相手と二人で過ごすんだろうか。

きっともう俺のことなんか忘れて、幸せに暮らしているんだろうな。

英梨さんとはもう二度とお互いの名前を呼んで抱きしめ合うことも、好きだと言ってキスをすることも、会って言葉を交わすことすらもない。

終わってしまえば、幻のようなひと夏の恋だった。

正確には恋と呼べるかどうかもわからない、青くて苦い経験だ。

いつかこの記憶が薄れて胸の痛みが消えるまでは、俺が本気で人を好きになることなんてないだろうし、相手からの好意も素直に信じることはできないだろうと思った。


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