愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
君に落ちるまで
高校を卒業して大学に進学すると、家柄や財産目当ての吉野みたいな女に目をつけられるのは御免だったから、俺は自分があじさい堂の社長の息子だということを周りにはひたすら隠して生活した。

相変わらず恋愛はうまくいかなかったけれど、そもそも付き合っても恋愛というものを誰ともしなかったのだから、うまくいくはずなんてない。

それでもなぜか好きだとか付き合って欲しいと言い寄られることは度々あって、社会人になるとフェロモンを撒き散らして媚びる女や、酔ったふりをして色仕掛けで迫ってくる女が増えた。

不本意ながら俺はまんまとそんな女の罠にかかり、しばらく付き合った末に、またしても突然他の男と結婚されるというひどい裏切りを受けた結果、女性に触れられるだけでも嫌悪感と不快感で吐き気を催したり過呼吸を起こしたりするようになった。

その後もトラウマによる女性不信で恋愛からは自然と遠のき、女性とは触れ合うことはおろか、仕事上の必要な関わりしか持てなくなっていった。

それでも人に嫌われることが怖かった俺は、できるだけ誰からも好かれるように笑って、誰に対してもいい人を演じた。

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