愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
それで自分の思うように仕事ができると、いつもは自信なさげな志織がとても嬉しそうに笑ってお礼を言ってくれたから、俺はそれだけで嬉しくて、この子がもっと自信をもって仕事ができるようになればいいなとか、もっと笑った顔が見たいなと思うようになり、真面目で一生懸命頑張る志織から目が離せなくなった。

そのうち仕事に関係のないことでも志織のことが気になり始めた。

しっかり化粧をして香水の甘い香りを漂わせ、男性社員に媚びるように笑っている他の女子と違って、志織はいつも薄化粧で、そばに近付くとほのかにいい香りがした。

後になってそれはうちの親父の会社のシャンプーの香りだと気付いたのだが、余計な香りがしない分、志織自身の微かな体臭とシャンプーの香りがいい具合に混ざり合うのか、そばにいるととても心地よかった。

そしていつの間にか志織と目が合うだけで胸の奥が疼くような感覚を覚えるようになり、一体これはなんなのだろうと、それまで経験したことのない感覚に何度も戸惑ったものだ。

しばらく経つと志織は俺が付きっきりで教えなくても要領良く仕事ができるようになり、雛鳥に旅立たれた親鳥のような気持ちで少し寂しく感じていたけれど、志織が営業事務として俺の担当をすることになり、以前より密に関われるようになったのは本当に嬉しかった。

その頃にはすでに、もしかして俺は志織のことが好きなんじゃないかと思い始めていて、志織のことをもっと知りたいと思うようになった。

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