愛したい、愛されたい ─心を満たしてくれた君へ─
30分ほど経つと宮本さんは掃除を中断して洗濯物を干し、それが済むと俺に昼食は何時頃がいいかと尋ねた。

朝が遅かったので1時過ぎでいいと答えると、宮本さんは時計を見ながらブツブツ呟いて段取りを考え、また掃除の続きに取りかかる。

宮本さんが2階の部屋を掃除に行ってリビングに一人になると、俺はようやく緊張から解放されて勉強に集中することができた。

12時半前になると2階の掃除が済んだらしく、宮本さんはまた1階に下りてきて、昼食の準備をし始めた。

「潤さん、苦手なものはありますか?」

「苦手なものは特に……」

「じゃあお昼はオムライスでいいですか?」

「お任せします」

本当は辛い物が苦手だけど、まさか家政婦が激辛料理なんて出したりはしないだろうし、男のくせにと思われそうでなんとなく恥ずかしくて言えなかった。

今になって思えば、男だって辛いものが苦手と言う人はいくらでもいるだろうに、思春期真っ只中だった俺は若い女性に子ども扱いされるのが恥ずかしかったんだと思う。

宮本さんは慣れた手付きで料理を始めた。

手際の良さを見ると料理は得意らしい。

宮本さんは出来上がったオムライスとサラダをダイニングのテーブルの上に置き、「昼食の準備ができましたよ」と俺を呼ぶ。

俺が席に着くと、宮本さんはグラスに注いだ冷たい麦茶を差し出した。

「これからお夕飯の支度をしますけど……何かリクエストはありますか?」

まだ昼食も済んでいないのに、夕食のことまでは考えられない。

なんでもいいと答えると、宮本さんは目を閉じて大きく首をかしげた。

「うーん……せめて和食とか洋食とか、ざっくりしたことだけでも」

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