サレンダー
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15歳 春。
何の取り柄もなく何の面白味もない人間
僕「高田 一」は、何の希望も持たずに高校に入り、何の考えも持たずに軽音楽部に入部した。
好きな音楽はエルレガーデンとRADWIMPS。普通。
パートはギターボーカル。普通。
中学時代の同級生とバンドを組んで、何の考えも持っていなかった割に大会やライブ活動の繰り返し。普通。
それでも普通なりにワイワイガヤガヤと毎日楽しくバンド活動に励んでいた。
彼女は、同じ部活の同級生だった。
だけど彼女と初めて話したのは入部して半年くらい経った後。
僕がバンドメンバーと殴り合いの喧嘩をし、部活全体が1週間の休部を命じられたときだった。
正直、今となっては喧嘩の内容なんて覚えていない。顧問にばれなければ、多分1時間後に仲直りしていたし。くだらないことが大事になる年頃だ。
ただ、周りの部活の同級生や後輩や先輩に迷惑をかけてしまったことだけが気がかりで、当時の僕は放課後、学内のあらゆる場所の掃除をし続けていた。
別にやれと言われてやっていた訳ではない。
部員の誰かに嫌味を言われた訳でもない。
だけど「それくらいやったらみんな許してくれるかもな」という大っ嫌いな顧問の一言を高校生なりに真摯に受け止めていた。
あの日のことは今でもよく覚えている。
10月中旬、僕は彼女のクラスの教室の黒板を掃除していた。
16時を過ぎた頃、誰もいない教室に背徳感だけ持った僕。
そろそろ帰るかあと思った時
彼女「室井 まゆ」が走りながら教室へ入ってきた。
思わず目を逸らした僕に、「高田くん?」と息を弾ませた彼女が話しかけてきた。
お互いに存在は知りつつも、話したことはなかったし、なんせ僕はその時童貞レベル500強位の男だったから、"気の知れた地元の子"以外の女の子と笑顔で話すなんてハードルが高い。高過ぎる。
しかも室井まゆは、歪んだ僕から言わせれば誰にでも好かれるタイプの見るからに私裏表ないんですぅ誰にでも優しいんですぅを売りにしている女子。
正直、苦手なタイプだった。
「あ…どうも。」
会釈を交えた童貞お決まりの台詞を吐いた僕はなるべく彼女を見ないように黒板を掃除し続けた。
すると彼女は ふわりと僕の横に立ち
目を見て、ただ一言「またね」と笑った。
彼女との会話はたった何秒かで終わった。
10月の半ばの金木犀の匂いと初めて嗅いだ彼女の匂い。
僕は、彼女はいい匂いのする人なんだと思った。
同時にもっと露骨に話しかけてくるタイプだと勘違いしていた自分に恥ずかしくなった。
そして、これもあとで分かったのだが、彼女はあえて人に
「バイバイ」でも「じゃあね」でもなく「またね」と言う。
これがあの日の僕には心底素敵に思えた。
何故だか、またあいたいと思ってしまったんだ。