というわけで、結婚してください!
「……で、お前はどっちを選んだんだ?」
と尊は前を見たまま、訊いてくる。

「いえ、だって、選ぶもなにも。
 私、王子、落としてませんから」

「夢の中では冷静だな」

 夢の中ではって、なんだろうな、と思ったが。

 式場から自分を略奪した尊について此処まで来ている時点で、あまり、冷静ではなかったかもな、と思う。

 しかも、さっき、本物の新郎、征に会ったのに。

 結局、自分は、また、尊と居る。

 一度、実家にも帰ったのに、出てきているし。

 もはや、なんの言い訳もできないな、と鈴は思っていた。

 私はもう、『式場から略奪された花嫁』ではなく、自分の足で、『政略結婚から逃げてきた花嫁』だ。

 ずん、と罪が重くなった気がしたが、何故だか、戻る気にはなれなかった。

 ずっとこうして、逃亡の旅を続けられはしないこと、わかっているのに――。
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