というわけで、結婚してください!
「お前とエレベーターで出会ってから」

 いや、見かけただけですよね、と心の中で訂正しながら、尊とは違う、ひんやりとした征の白い手を見る。

「ずっとこの日を夢見ていたんだ――。

 お前が俺のものになるこの日を。

 ……やっと手に入ると思ったのにっ」
と式当日の怒りを再燃させて、征は言い出す。

「お前を見てすらいなかった男に、お前は渡さんっ」

 いや、どっちもどっちですよっ、と鈴は後退するが、手はガッチリ握られたままだ。

 みっ、尊さんっ。
 助けてーっ、と玄関扉の方を振り返る。

 征は自分たちを二人きりにさせてくれた尊を嘲笑うようにそちらを見て言った。

「つめが甘いんだよ、尊は。
 そして、人が良すぎる」

 だから、跡継ぎからはずされるんだ、と征は言った。




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