というわけで、結婚してください!
「お姉ちゃんっ!
 私の指輪、持ち出したわねっ。

 あれは、私がお祖母様にいただいたものよっ」

「だったらなによっ。
 あんた、昨日、私のバッグをっ――」
と駆け上がっていった和音は、姉妹で揉めながら、何処かに行ってしまったようだ。

 声が遠ざかっていく。

「なんかあのー。
 ……すごい人ですね」

 まだ征の膝に座らされたまま、鈴は呟く。

 あの親から、よくこんな、ちょっとぼんやりした尊が生まれたな、と思ったのだ。

 親がシャカシャカしすぎていると、子どもは、ぼうっとするって言うから、それでかな。

 などと、強烈すぎる和音に毒気を抜かれたまま、階段の方を見ていると、尊の父、正明が下りてきた。

 まだ微かに聞こえてくる、妻たちの騒ぎ声を背中に浴びながら、ひとつ溜息をついた正明は、
「ほら、鍵」
と尊に鍵を渡す。

 あっ、という顔を征がした。
< 340 / 477 >

この作品をシェア

pagetop