というわけで、結婚してください!
 出るなと言われたので、魚眼レンズから外を見てみたが、当たり前だが、真下の駐車場は見えない。

 まだなにもない玄関脇の部屋に行き、窓から覗くと、尊の車が大きな通りに出て行くのが見えた。

 ……うう。
 曲がりにくそうだな、ロールスロイス、と思いながら見送ったあとで、ひとりになり、ふう、と息をついた鈴は思う。

 本当になにもないなー。

 布団とさっき買った飲み物と朝ごはんしかないぞ。

 それも、冷蔵庫もまだないので、冷やさなくてもいいものしか買ってない。

 尊さん、数日、此処で寝起きしてたのかあ。

 まあ、忙しそうだから、家には本当に寝に帰るだけなんだろうな、と思いながら、外を見た。

 さっきの枠に、もう尊の車はない。

 早く中に入れ、と言った尊の言葉を思い出しながら、鈴は思う。
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