恋愛零度。

「あー、楽しかった」

無事に館から脱出して、私はなんだか本当に冒険をしてきたように、心が弾んでいた。

「すごいな、真白は……」

桐生くんは、すっかり脱力していたけれど。

戻ってきた三好さんたちと合流して、お昼ご飯を食べることにする。

フードスタンドの列に並んでいるとき、由良くんが、そっと耳打ちしてきた。

「ね、楽しかったでしょ?」

約束のことなんてすっかり忘れて楽しんでいた私は、どきりとしながら、うん、と頷いた。

「なんの話?」

桐生くんが不思議そうに訊いてきて、

「なんでもないよ」

私は慌てて答えた。

由良くんに、ひそかに感心しながら。

……わかってたんだ。

暗闇のなかで、私が思わず、桐生くんの手を取りたくなることを。
< 109 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop