恋愛零度。

散歩以外で、ここに来たのは久しぶりだった。

短い草と砂利があるだけの、なんでもない場所。

「なんにもないけどね。全然人が来ないし、マロンの散歩にはちょうどいいんだ」

「ここで走りまわれたら気持ちいいだろうなー」

桐生くんはそう言って、おもむろになにかを探し始めた。

「……なにしてるの?」

「石探してんの」

同じように見える小石を、拾っては戻しを繰り返し、
「お、これいいな」

弾んだ声でそう言って、立ち上がった。

おはじきみたいな平べったくてつるりとした小石を手に持って。

「真白、水切りしない?」

久しぶりにその名前を聞いたから、一瞬、なんのことかわからなかったけれど。

けれどすぐに思い出して、ああ、と頷く。

「言っとくけど、私、すっごい下手だよ」

「それ、自慢げに言うことか?」

桐生くんが笑いながら立ち上がる。

「じゃ、俺が直々に教えてあげるよ」

「え?いや、そこまで……」

「いいからいいから」

と強引に押し切られて、私もしゃがんだ。
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