恋愛零度。
「真白」
この場所で、そう私の名前を呼ぶ声は、奏多の声じゃなかった。
桐生くんの腕が、私の身体をそっと包み込んだ。
「これだけは言える。そいつは絶対、真白のことを大事に思ってるよ」
「え……?」
「そいつだけじゃない。真白の家族も、友達も、俺も、みんな、真白のことが大切だし、笑ってほしいと思ってる」
「桐生くん……」
「だけど、笑えないなら、無理して笑わなくていい。泣きたいなら泣けばいいし、話を聞いてほしいときは、そう言えばいいんだ。真白、前にそう言ってくれただろ。あの言葉、嬉しかったから。今度は俺が返すよ」
優しいその声に、私はまた泣いて、そして少し、笑ってしまった。
「あ、ひどいなあ。人がまじめに言ってんのに」
「ご、ごめん……泣き虫な桐生くんに、慰められちゃったなって」
「……うるさいよ」
むっとした顔で、そう言った君の細い腕に、ギュッと力がこもる。
その腕が、少し震えているのに私は気づいた。