恋愛零度。


「俺、真白のことが好きだよ」

桐生くんが言った。

前にも聞いた。私はそのたびに突き返してきた。

だけどいまは、前とは少しだけ違う響きがあった。

優しくて、じわりと胸の奥に触れるような、あたたかい響き。

「でも、返事はいらない」

「え……」

「俺、待つから。真白が俺のこと好きになってくれるまで、ずっと待ってるから」

「……ありがとう」

私はつぶやいて、頭を君の胸にそっと預けた。

わかってるんだ。少しずつ、前とは違ってきていることに。

君の気持ちに応えられないのに、前みたいに、冷たくはねつけることも、できなくなってる。

君のあたたかい胸のなかで、もう少しだけこうしていたいって、思ってしまうんだ。

「てか、ほかのこと考えられないくらい俺に夢中にさせてみせるから」

涙で濡れた私の髪に触れて、君がイタズラっぽくそんなことを言うから、

「それはない!」

「そんな全力で拒否しなくても……」

予想できない言葉や、不意打ちの仕草。

君と一緒にいると、そんなことの連続で。

だから私はいちいち動揺してしまって、いつまで経っても慣れる気がしないんだ。

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