恋愛零度。

そのとき、くるりと振り返った瞬間、そこにいたひとと、目が合った。

色白で、目鼻立ちがはっきりとした、思わず目を奪われてしまうほど、きれいな顔。

あのときの人だ、とすぐにわかった。

イチョウ並木の真ん中で、泣いていた男の子。

一瞬だけ、濡れたように見えたその瞳が印象的だったから、よく覚えていた。

でもいまは、泣き顔なんてとても想像できない明るく爽やかな表情で、

「それ、おいしい?」

突然、話しかけてきた。

「えっ?」

手元のパックを見ると、『ごぼう茶』と書いてある。

な、なんでこれがカフェオレの隣に……?

慌てたせいで間違って押してしまったことに、いまさら気づいた。

「おいアオイ、なにこんなとこでナンパしてんだよ。はやく奢れよー」

明るい髪色の、なんだかチャラそうな人が、じれったそうにその名前を呼ぶ。

「ナンパじゃないよ」

と彼はムッとした口調で返す。

「あの、失礼します……っ!」

「あ、待ってーー」

彼が呼び止める声が聞こえた。

けれど私は聞こえなかったふりをして、逃げた。


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