恋愛零度。


「いかがですか?」

とカーテンの向こう側から、店員さんの声が聞こえる。

「えっと……」

よくわかりません、というのが、正直な感想だった。

そろりとカーテンを開けてみると、服を見ていた三好さんが振り返って、「おおっ」と声をあげた。

「かわいい!すっごく似合ってる!」

「そ、そうかな……?」

もう一度鏡の中の自分を覗き込んでみる。

いつもと違う自分。

慣れないワンピースの感触。

こんなに可愛らしい服を着たことがないから、ものすごく違和感がある。

「似合いですよー!」

店員さんまで、目を輝かせてそんなことを言うから、ついうっかり乗せられてしまいそうになるけれど。

「す、すみません、もう少し考えてみます」

「ええー、絶対似合うと思うんだけどなー」

不服そうな三好さんに、ごめんね、と心の中で謝って、カーテンを閉めて元の服に着替えた。

もう一度、鏡を見てみる。

お人形の部屋みたいな可愛らしい空間で、一瞬、勘違いしそうになった。

服はすごく可愛いと思う。でも……

やっぱり、こんなの、私には似合わない。
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