恋愛零度。



放課後。

「ばいばーい」

「また明日ー」

クラスメイトたちが口々に言って、まちまちに教室を出ていく。

帰る支度をしていると、

「ばいばい、唯川さん!」

と部活用のスポーツバッグを肩にかけた三好さんが、ニコッと笑顔で言った。

「あ……うん、ばいばい」

おなじように笑ってみたつもりだけれど、つい口の端が引きつってしまって、やっぱりあんなふうに、うまく笑えなかった。

3階にある教室を出て、階段を下りていく。

中央の階段は、いつも踊り場に溜まっている集団が苦手で、私はいつも、端っこの、あまり使われていないほうの階段を使う。

踊り場の、背の高い場所についている小窓から、夕方になる前の淡い光が射していた。

その光のなかにーー

淡いオレンジ色の光に包まれるようにして、彼が立っていた。

ふわふわと柔らかそうに揺れる茶色の髪、光に透けそうな白い肌。

私は立ち止まり、その人を見つめた。

彼に会ったのは、これで3度目だった。

そのとき、なぜか私は、はっきりと確信した。

彼が、「桐生蒼」その人なのだと。


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