恋愛零度。
10.『夢じゃない。』
慌てて病院に駆けつける頃には、もう外は真っ暗になっていた。
あまりに突然のことに、私は頭が真っ白になって、電話を切っても、ただ呆然と立ち尽くしていた。
ーーお母さんが、倒れた……?
『なんていう病院かわかる?』
『……坂上病院だって』
『いまから行こう。電車で行けばすぐだ』
あの病院だ、とわかった。
前に桐生くんが話してくれた、学校の近くの病院。
電車に乗っている間、悪いことばかり考えてしまって、気が気じゃなかった。
不安で震える私の手を、桐生くんがずっと固く握り締めてくれていた。
あたたかかった。その手に触れていれば、波打つ心が、ほんの少し落ち着く気がした。
君がそばにいてくれたから、私は立っていられたんだ。