恋愛零度。
お母さんの病室の前、薄暗い廊下の長椅子に、お姉ちゃんは座っていた。
私と桐生くんを見て、露骨に顔をしかめる。
私は慌てて、繋いだ手を離した。
「お姉ちゃん、お母さんは……?」
「寝てる。過労だって」
「そっか……」
最近のお母さんは、前にも増して忙しそうだった。
それこそ、倒れたって無理もないくらい。
家ではほとんど仕事の話をしないし、愚痴すら吐かないから、お母さんの仕事のことを、私はよく知らない。
ただ、忙しそうなのはわかってた。
疲れてるのも、無理してるのも、わかってた。
だけど、心配しても、お母さんは決まって「大丈夫」と言うから。
お母さんがそう言うならきっと大丈夫なんだって、その言葉を信じてしまっていた。