恋愛零度。
「まあ、べつにいいけど」
とお姉ちゃんが言った。
「あいつーー桐生蒼、って言ったよね」
「え?う、うん」
私は戸惑いながら頷いた。
他人にほとんど興味を持たないお姉ちゃんが、その名前を覚えていたことに、驚いた。
そういえばーー
前、桐生くんにうちまで送ってもらったのを見られたときに、名前を訊かれた。
そのときに、言っていたこと。
ーーあいつ、どっかで見たことある気がするんだよね。
はっとして、お姉ちゃんを見た。
もしかして。
「思い出した、あの顔、どこで見たのか」
お姉ちゃんは、桐生くんが歩いていった廊下の先の暗がりを見つめながら、そうつぶやいた。
「……この病院よ」