恋愛零度。
コツ、コツ、コツ、と廊下のほうから、足音が聞こえてくる。
見回りの看護士さんが来て、私はぱっと立ち上がった。
「こんばんは」
「すみません、失礼します」
なぜか早く帰れと言われている気がして、私は慌てて部屋を出た。
薄明かりの街灯が並ぶ、暗がりの道をとぼとぼと歩く。
今日は雲が多くて、星は全部空の向こうに隠されている。輪郭のはっきりしないおぼろ月だけが、ぼんやりと浮かんで見えた。
なんだか、まっすぐ帰る気になれなかった。
生まれて初めて、お姉ちゃんとケンカした。怒られることはあっても、自分から歯向かったことなんてなかった。
だけど、許せなかったんだ。お姉ちゃんが、あんなふうに変わってしまったことが。
それが勉強ばかりしているせいなら、勉強なんてしたかなかった。
いつもなら、お母さんに早く帰ってきなさい、って怒られるだろうけど、そのお母さんは病院だし……。
なにもかも、うまくいかない。
どうしてこうなっちゃうんだろう。