恋愛零度。
バス停のベンチに、人がいた。淡い街灯の灯りに照らされたその人が誰か、顔を見なくてもすぐにわかった。
「桐生くん……!?」
「……真白」
桐生くんの目は少し赤く腫れていて、泣いた跡だとわかった。
「ずっと、待ってたの?」
「真白が泣いてるんじゃないかと思って」
「そんなこと言って、桐生くんが泣いてるじゃん……」
言われて気づいたのか、君は慌てて涙を拭う。
「はは……泣いてばっかりだな、俺」
桐生くんは、笑うのに失敗したみたいな、おかしな顔をした。
「さっき、お姉さんに会ったよ」
その言葉に、どきりとする。
「お姉ちゃん、なんか言ってた?」
「もう真白に会うなって。関わるなって、はっきり言われたよ」
桐生くんは苦笑しながら言った。
「……って、さっそく破ってるから、また怒られちゃうな」
「ーー桐生くん」
私はギュッと手を握りしめた。指の先が、冷たさにかじかんで固くなっていた。
言いたくない。本当のことなんて、聞きたくない。
でもーー、
「前にも、お姉ちゃんに、会ったことあるんだよね……?」
私がそう言った瞬間、桐生くんが、はっとしたような顔をした。
私は、知らなきゃいけないんだ。
君がまだ話していないこと。隠してること。
君が私の前に突然現れた理由。
それは、君の涙と、きっと無関係じゃないんだよね。