恋愛零度。
そのとき初めて、真白を見た。
犬を連れた女の子がひとり、背を向けて、ぽつんと座っていた。小さくて、か細いその背中は、震えていた。
「泣いてるんだって、すぐにわかった。声をかけたかったけど、なんて言っていいかわからなくて……結局、なにも言えないままだった」
見られているなんて、全然しらなかった私は、びっくりした。
「み、見てたの……?」
「たまに……ごめん」
桐生くんが、珍しく気まずそうな顔をした。
どうにもできなくて、もどかしくて、奏多に電話をしてぶつけた。
『奏多に会いたがってるんだよ。会ってやれよ』
でも、奏多は頑なに会うことを拒んだ。
『……それはできないんだ』
『なんで?』
『どうしても』
『薄情なやつ』
どうせ向こうで彼女でもできたんだろうと思った。だから真白に会うのが気まずいんだって。
そう思ったら、無性に腹が立った。
会ったこともない真白のことが、気になって仕方なかった。
奏多に飽きるほど聞かされていたせいで、いつのまにかその子のことを、ずっと昔から知っている友達みたいに、思っていた。