恋愛零度。


君の両目に、じわりと涙が浮かぶ。はらりと、ゆっくり、頰を伝う。

「桐生くんだって泣いてる」

私が少し笑って言うと、

「……泣くだろ、こんなの」

と君は照れたようにつぶやいた。

「だって、ずっと会いたかった女の子が目の前にいて、俺のこと好きになってくれるとか、そんな嬉しいことないって」

「……うん、私も、嬉しい」

そう言って、君の手をギュッと握る。その手に、君の力が込められる。

私たち、泣いてばっかりだね。

でも、仕方ないよね。

だって、人を好きになることも、人に好きと言われることも、嬉しいことだから。

知らなかった。悲しい涙だけじゃなくて、嬉しい涙もあるんだって。

私は人を好きになれないから、人に好かれることもないって、勝手に思っていた。

でも、本当は全然、そんなことなかった。

私はとっくにその気持ちを知っていたし、たくさんの人からの愛情を、受け取っていたんだ。

気づかなかったのは、ちゃんと見ようとしなかったから。

よく見れば、そんな簡単なこと、すぐにわかったのに。



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