恋愛零度。


「真白の弁当、いつもお母さんが作ってるの?」

ちゃっかり隣に座った桐生くんが、私のお弁当箱を覗き込んで言う。

「うん、まあ」

もはや抵抗する気力もなくした私は、普通に頷いた。

最後のささやかな抵抗として、いちおう適切な距離は保っているつもりだけど。

……距離感が近いから、困る。

「すごい手が込んでるなあ。作るの時間かかりそう」

2段になったお弁当箱に、ごはんと、お肉や煮物やサラダなど、細々したおかずが少しずつ小分けになっている。几帳面なお母さんらしい。

「うちのお母さん、超人だから」

私は言った。

「超人なの?」

桐生くんが少し笑う。

「仕事も家事も、なんでもかんでも自分でやらないと気がすまない。しかも完璧主義だから、絶対手を抜かない」

「へえ、カッコいいお母さんだね」

「うん、でも、たまに心配になる。頑張りすぎじゃないかって……」

「じゃ、バレないようにさりげなく手伝えばいいんじゃない?それに、心配してもらえるだけでも嬉しいと思うけど」

「そ、そうかな……」

と、そこまで話して、はっとした。

私、なにを自分の家庭事情をべらべら喋ってるんだろう。

この数日で、わかってきたことがある。桐生くんは、すごく聞き上手なんだ。

強引に人の隣を陣取って、興味深げに話に耳を傾けてくれるから、話すつもりなんてなかったプライベートなことまでつい口からぽろっと零れてしまう。

「桐生くん、詐欺師とか向いてるんじゃない?」

「え、なに急に?」

「……なんでもない」


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