恋愛零度。



テストが始まった。

「どうだった?」

「全然ダメだー」

あちこちからそんな声が聞こえてくるなか、私はさっさと帰る支度をする。テスト期間中は、半日で終わりだ。

なにより嬉しいのは、昼休憩がないってこと。これで桐生くんに会わずに済む。

はやく帰って勉強しよう、桐生くんに遭遇する前に。

そう思ったのにーー

「あ、真白っ!」

帰り道、学校のそばのイチョウ並木で、声をかけられてしまった。

振り向かずに足を早めるけれど、すぐに追いつかれてしまう。

「もしかして、逃げようとしてる?」

「……わかってるならわざわざ話しかけないでくれる?」

そう言いながら、なんだか、妙に周囲の視線を感じた。

……ていうか、めちゃくちゃ見られてる!?

「じゃ、じゃあっ!」

私は言って、その場から走り去った。

私の遅い足なんて、桐生くんなら歩いてでも追いつけそうだけど、さすがに追ってはこなくて、ホッとした。


家に帰ると、お姉ちゃんも帰ってきていた。私よりはるかにレベルの高い学校に通うお姉ちゃんも、テスト期間は同じらしい。

今日のお昼ごはんは、お姉ちゃんと2人で、残り物のカレーになった。

「テスト、どうだったの」

お姉ちゃんがカレーを食べながら、暇つぶしみたいな口調で訊いてきた。

「うーん、まあまあかな」

「そう」

お姉ちゃんはそう言って、私の顔をじっと見る。

「な、なに?」

「あんた最近、やっぱり、なんか変」

お姉ちゃんは、真顔で言った。

「えっ?どこが?」

「どこがって言われると、なんとも言えないけど……なんか妙に落ち着きがないっていうか、様子がおかしいっていうか」

様子がおかしいって……。
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