恋愛零度。

テレビのトーク番組の合間に、映画の番宣が始まった。

『もうほんとに切なくてキュンとして、この季節ぴったりの映画だと思います。舞台になっている場所もすっごく素敵なんですよ〜』

『冬はやっぱり恋したくなりますよねー。クリスマスとかバレンタインとか、イベントも多いし』

タレントのひとりが言って、そこから繋がるように、恋愛トークが広がっていく。

嫌な予感がした。

『理想のデートはーー』

ブチッ。

唐突に、テレビの電源が切れた。

うん……なんとなく、こうなる予感はしてたけど。

不愉快そうに眉を歪めたお姉ちゃんが、リモコンを置いて、憎々しげに口を開く。

「馬鹿みたい。なにが冬は恋愛したくなるよ。こっちは受験でいっぱいいっぱいだってのに、頭空っぽな奴らばっかっで嫌になる。だいたいまだ10月だし。気早すぎでしょ。脳内ピンク色で埋め尽くされてんじゃないの」

普段は口数が少ないお姉ちゃんだけど、なにかの拍子にスイッチが入ると暴言が止まらなくなる。受験シーズン真っ只中のいまは、いつもピリピリしていて、情緒不安定ぎみだ。

「仕方ないわよ。この人たちは、自分の恥ずかしい話を世間にさらすことでお金をもらってるんだから」

と冷ややかに悪態をつくお母さん。

「かわいそうに。私だったら死にたくなるわ」

「同感よ」

どこからか風の音が聴こえてきそうな程寒々しい空気。といっても、うちではこれが日常なんだけど。

お母さんとお姉ちゃんは、極度の男嫌いなのだ。

リアルな恋愛話はもちろん、テレビの何気ない恋愛トークですら、この家では一瞬にして空気を凍りつかせてしまう。

こういうとき、なにか余計なことを言うと、さらにヒートアップして止まらなくなるのがわかっているから、私はひたすらノーコメントを貫くことにしている。
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