恋愛零度。
「えー、この公式を当てはめてー」
授業中も、ずっとそのことばかりで、頭の中がモヤモヤしていた。
窓の外をぼんやり眺めていると、グラウンドで体育の授業をしているクラスが見えた。
数人の男子たちの中に、その姿を見つけた。
……桐生くん。
背が高いし目立つから、どこにいてもすぐにわかる。
いつも人に囲まれてて、人気者で、本来なら、私なんかとはまるで縁のない世界に生きてるような人なんだ。
どうしてそんな人が、私に興味を示したのか、いまだにちっともわからない。
勉強だけは誰にも負けないつもりだったのに、あっさり負けてるし……。
午前中の授業が終わって、三好さんが振り向いて尋ねる。
「唯川さん、なんかいろいろ噂されてるけど、大丈夫?」
「うん、噂なんて気にしてないから」
私は平静を装って、そう答えた。
気にしてない、なんて、完全に強がりだ。
噂は怖いし、嫌だ。自分の名前があちこちで口にされるなんて、耐えられない。
でも、それをいちいち気にしてる自分も、嫌だった。
「そっか、唯川さんは強いね」
三好さんは、笑って言った。
本当は、心配してくれて嬉しかったのに。
私はいつもつまらない意地を張って、人の優しさを跳ね返してしまう。