恋愛零度。

「えー、この公式を当てはめてー」

授業中も、ずっとそのことばかりで、頭の中がモヤモヤしていた。

窓の外をぼんやり眺めていると、グラウンドで体育の授業をしているクラスが見えた。

数人の男子たちの中に、その姿を見つけた。

……桐生くん。

背が高いし目立つから、どこにいてもすぐにわかる。

いつも人に囲まれてて、人気者で、本来なら、私なんかとはまるで縁のない世界に生きてるような人なんだ。

どうしてそんな人が、私に興味を示したのか、いまだにちっともわからない。

勉強だけは誰にも負けないつもりだったのに、あっさり負けてるし……。


午前中の授業が終わって、三好さんが振り向いて尋ねる。

「唯川さん、なんかいろいろ噂されてるけど、大丈夫?」

「うん、噂なんて気にしてないから」

私は平静を装って、そう答えた。

気にしてない、なんて、完全に強がりだ。

噂は怖いし、嫌だ。自分の名前があちこちで口にされるなんて、耐えられない。

でも、それをいちいち気にしてる自分も、嫌だった。

「そっか、唯川さんは強いね」

三好さんは、笑って言った。

本当は、心配してくれて嬉しかったのに。

私はいつもつまらない意地を張って、人の優しさを跳ね返してしまう。


< 44 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop