恋愛零度。
いつも通り、中庭に行く。
チャイムが鳴っても、桐生くんは、いつもみたいにひょっこり顔を出したりしなかった。
ーー話しかけるなとは、言われてないし?
ーーまあ、でも、諦めないけどね。
ふいに、そう言われたことを思い出して、ズキンと胸の奥が痛んだ。
桐生くんは、お母さんのお弁当を、すごいと褒めてくれた。
まるで自分が褒められたかのように、嬉しかった。
そうでしょ、すごいでしょ、自慢のお母さんなんだ。
子どもっぽいのはどっちだ、と苦笑する。
隣に人がいると、ほんの少し、空気が温かくなる気がした。
桐生くんといるのが、そんなに嫌じゃなくなっていることに、気づきはじめていた。
なのにーー、
私はそんな人を、傷つけたんだ。
隣にいると、気が抜けて、安心して、居心地がよくて、言わなくてもいいことまで言ってしまう。
私は、それが嫌だった。
私には、変化なんて、必要ないから。
だから、これ以上近づいてしまわないように、自分から遠ざけた。
最初から、私は1人だった。
元に戻っただけ。
ただ、それだのことなんだ。
久しぶりに1人で食べるお弁当は、あまり味がしなかった。