恋愛零度。
お母さんは、10年前に出ていったお父さんのことを、いまだに根に持っている。
お父さんについて、いいことはひとつも聞いたことがない。
『あんたたちはああいう男に引っかかっちゃダメよ。人生台無しになるから』
『失敗しないように、今からしっかり勉強するの。男に舐められたら終わりよ』
頭の隅々まで刷り込まれるくらい、繰り返しそう言い聞かされている。
当時、5歳だった私は、家にほとんどいなかったお父さんのことを、あまり覚えていない。お父さんが写っている写真は全部捨ててしまったらしいから、ぼんやりと、それらしき人の面影が、記憶の片隅に残っているだけだ。
でも、2つ上のお姉ちゃんの記憶には、はっきりと残っているみたい。
そのせいかどうかはわからないけど、お姉ちゃんはお母さんの意思をしっかり受け継いで、この頃は「私は男なんかに頼らない自立した人生を歩むの」なんて言い出した。
県内一の名門校に通い、そのなかでもトップクラスの成績で、国立大の合格もほぼ確実と太鼓判を押されているらしい、超エリートなお姉ちゃん。
小さい頃はいつも一緒に遊んでいたのに、なんだか、ずいぶん遠い存在になってしまった気がする。