恋愛零度。

「私、桐生くんが入学してきてからずっと好きだったの。なのにアンタみたいなぽっと出の小者に横取りされるこの気持ち、わかる?」

「横取りなんて……」

「私はなにもしてないって?そうやっていい子ぶるのやめてくれる?うざいから。どんな手使ったのか知らないけど、さっさと諦めてよね」

私は彼女をじっと見つめた。

この人はきっと、いままでにそんな屈辱を味わったことがなかったんだろう。

だからその事実が、どうしても受け入れられないのだろう。

そのきれいな顔が不快そうに歪み、憎々しげに毒を吐き出すのを見て、私はぞっとする。

人の悪意を目の当たりにすると、嫌でも思い出してしまう。

人の顔が、一瞬で、こんなにも変わる瞬間を。

思い出した途端、私は深い沼に足を踏み入れたみたいに、そこから動けなくなってしまう。

「なにその顔。ちょっとは言い返したら?イラつくんだよ」

彼女はそう言って、私をドン、と突き倒す。

私は抵抗する間もなく、尻もちをついた。

「ぷっ……お似合いよ、その場所」

そこはゴミ置き場だった。

ゴミの山の上で呆然とする私に、彼女は持っていたゴミ袋を放り投げた。

ドス、とお腹にのしかかる鈍い重圧に、私は「う……」と声にならない声をあげる。
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