恋愛零度。

「あ、蒼くん、なんでここに……」

声を震わせ東さんを素通りして、彼は私の前に立った。

「迎えにきたよ。さあ、行こう」

そう言って、手を差し伸べる。

「え……?」

「まあ、そこにいたいなら、べつに止めないけどーー」

私は思わず、桐生くんの手を取った。男の人っぽくない、白くてほっそりした手。

「よろしい」

そう言ってにっこり笑うから、私はなんだか恥ずかしくなって、ぱっと手を離した。

「……なんなの」

東さんのくぐもった声がつぶやく。

「ねえ蒼くん、なんでこんなのがいいの。よく考えて。どう考えたって私のほうが蒼くんに釣り合ってると思わない?」

「釣り合ってるかどうかは、自分で決めるから」

桐生くんは冷ややかな声で言った。
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