恋愛零度。
私は固く目をつぶった。
誰かを好きになることが、面倒なんじゃない。私は、怖いんだ。
誰かを好きになって、失うことが、どうしようもなく、怖いんだ。
それなのに、いつもいつも、本当の気持ちとは反対のことばかり言ってしまう。
助けてほしいのに、放っておいてと言う。
友達になりたいのに、1人がいいと言う。
嬉しいのに、迷惑だと言う。
人の優しさをはねつけて、拒んで、殻に閉じこもって。
そのうちに、私のまわりには、誰も人がいなくなっていた。
桐生くんだって、そうに決まってる。
こんな私に嫌気がさして、いつかきっと、離れていく。
後になって失うくらいなら、最初からなにもないほうがいいんだ。
「ーーねえ、真白」
うつむいて顔を上げられない私の頭の上に、桐生くんの柔らかい声が、優しい雨みたいにぽつりと降ってきた。
「……っ」
桐生くんの細い手は、泣きたくなるくらい温くて。
それは単なる体温じゃなくて、その人自身から滲み出る温かさだと思った。
「誰だって、怖いものはあるよ。俺にだってあるし」
私は驚いて顔をあげた。桐生くんの優しい目と、目があった。
「桐生くんにも、怖いものがあるの?」
尋ねると、桐生くんはふっと口元に笑みを浮かべて言う。
「あるよ。真白が俺を無視すること」
「ま、また、そうやってはぐらかす……」
「二度と話しかけるなって言われて、立ち直れないかと思った」
と桐生くんは拗ねたように少し口を尖らせる。
その瞬間、大人っぽい顔立ちが急に幼くなって、私はつい笑ってたしまった。