恋愛零度。
「き、桐生くん、ま、待って……っ」
私はぜえはあと息を荒く吐く。
「真白、体力なさすぎ」
桐生くんが足を止めて笑う。
「桐生くんはなんでそんなに元気なの……」
まるで、散歩に行くときのマロンみたいだ。
ぴょんぴょん弾むように駆け出して、強引にぐいぐい引っ張って。
そんなに速く走れない私は、いつだってその後を必死についていくばかり。
「毎日散歩してるんだけどな……」
「散歩?」
「あ、うん。うちで飼ってる犬の」
「へえ。犬飼ってるんだ」
「マロンっていうの。世界一かわいい」
「あはは、親バカだ」
3年前にうちに来る前、マロンは、奏多の家の飼い犬だった。
だけど、ある日突然、奏多がいなくなったのと同時に、お母さんが『道端で拾った』と連れて帰ってきたんだ。
それから3年間、夕方のマロンの散歩は、毎日欠かさず私の日課になっている。