恋愛零度。
そのとき、ふいに、強い風が吹いた。
ざあっ、と一斉に葉が揺れて、夕焼け空に照らされた、黄金の世界が広がった。
小さな葉っぱが、空から落ちてくる光の粒みたいに、きらきら舞い落ちて。
ほんとうに、君の言うように、そこは希望に満ちていた。
君が昔、遠くの窓から眺めていた世界。
いまは、ふたりで、そのなかにいる。
「きれい……」
そんな簡単な言葉しか出てこないくらい、私は、心を奪われていた。
毎日通る道。当たり前の光景。
だから、わざわざ足を止めてみたことなんてなかった。
だけど、こんなにもきれいな場所だったんだ。知らなかった。
「きれいだな」
そう言った君の横顔を、ちらりと横目で見る。
もう涙は見えなくて、空を舞う葉を、君はまぶしそうに眺めていた。
結局、涙の理由は訊けなかったけれど……
涙が止まったのなら、よかった、と私は思った。