風の歌
〈プロローグ〉 


 むかし、ある王国に、ひどく冷酷で美しい国王がいました。



 国王の名は、アルゼンタム・カエレスエィス。



 銀の髪をもつ、世にも美しい国王で、国内では勿論のこと、近隣諸国の間でも大変有名でした。



 そして何より、父、のアストラ・カエレスエィス国王の代まで荒れていた国政を、父亡き後たった数年間で立て直したほどの大変な切れ者で、類い稀なき賢き国王でした。



 18歳で国王の座に着くまでは、14歳という幼い頃より、数々の武功を上げてきたことでも有名でした。



 若くして数々の内乱を制圧し、自国の領土を広げ、いくつもの近隣の小国を支配下におき、今や世界でも力のある三大国家の一つとしてその名を馳せていました。





 しかしながら、ここまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。



 若くして国王の座に着いたこのアルゼンタムは、国に害を為すと判断したものは全て、徹底的に排除することで、ここまでの国家を築き上げてきたので。



 それがどんなに冷酷であろうとも、国の安寧の為には一瞬の迷いも見せませんでした。



 冷酷であるが故、彼はいつも彼は孤独でした。



 

 彼の美しい顔には一切の表情がありませんでした。



 城の者は誰も、この国王の表情が変わるのを見たことがありません。



 誰もがこの国王を敬い、怖れていました。



 やがて、人々は国王をこう呼ぶようになったと言います。



       “銀王”



 と。













 そんな彼の前に、ある日、変わった身なりの少女が現れました。



 見たこともない黒髪。



 それに、髪を伸ばす習慣にあるこの国ではまず見られない、少年のような短い髪は、あまりに異様でした。



 それから、露出の多い短いスカート。



 白いシャツの形は近隣諸国でも見たことがありません。



 履き物に関しても、とても変わった作りの黒い光沢のあるものでした。



「この娘が、城都をうろついていたという娘か」



と、国王が問うと、



「さようでございます、陛下。この通り、見慣れぬ格好の奇妙な娘でございます。他国の間者やもしれませぬ」



と、少女を連行してきた無骨な兵隊長が答えました。



「どのようになさいますか」



と、側近が訊ねると、



国王は冷たくこう言い放ちました。



「拷問して何者なのか全て吐かせよ。」







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