オトナの事情。
「そんなこと、俺に話してもいいの?」
きっとこれは、俺みたいな関係の無い人間が聞いて良い話では無いはずだ。
『だって、ユキ君には、知ってて欲しいの……来年にはもう、私、ここを出るから。』
聞けば、許婚の彼は3つ歳下で、今年の冬には18になるらしい。
『すぐには籍は入れないけど、正式に婚約するの。婚約するまでは何をしても良いっていう約束だったから、私がお仕事出来るのは、きっとそれまで。』
タイムリミットまで、あと1年。
唐突に突きつけられた嘘のような現実に、さっきまで俺たちがいたのは、本当に夢の国だったんじゃないかとさえ感じる。
『…お友達はお人形とばあやだけだったけど、それはあの人の優しさだったのかもしれない。』
ルナはまた困ったように笑いながら、震える指で俺の頬に触れた。
『…大切なものを作ってしまったら…手放すのが、つらいもの。』