オトナの事情。
トントン、と叩かれて目を覚ますと、ルナがこっちにカメラを向けていた。
『到着しましたよ~』
着陸の振動でも起きなかったの?なんて首を傾げるルナ。
「…それ、何のカメラ?」
寝ぼけ眼にそう聞けば、
『るーなの卒業スペシャルのウェディング企画の舞台裏を、後日YouTubeにアップするわけですよ。』
「…なるほど。」
ルナはデビュー以来5年間、ずっとこの雑誌の看板モデルだった。その卒業スペシャルだから、誌面だけでなく、SNSを使って盛大に行うんだろう。
「皆さんおはようございます。BLUEボーカリストの向坂宏之です。ルナさん、今回は久しぶりに相手役よろしくお願いします。」
『こちらこそです。ちなみにハワイは今、早朝4:00でございます。』
「…うわー、すでに時差ボケだわ。」
『うふふ。でしょうねぇ~』
そこまで撮って、カメラを閉じる。
『ごめんね、いきなり撮って。』
「いや、プライベートな旅じゃないのはちゃんと分かってます。」
長時間のフライトの直後なのに、きっちりメイクもして、服もリゾートなものに着替え終えているルナからは、相当気合が入っているのが伺える。
モデル 狭間ルナとしての、最後の大仕事。
折角俺も関われるんだから、きちんと仕事しないとな。
南国の緩やかな風に吹かれながらも、俺は改めて気を引き締めた。