オトナの事情。
押された俺はドテッと尻餅をついて、そこにバランスを崩したルナが覆い被さる。
水着を纏って、朝日に照らされて、少し髪を濡らしたルナは、いつもより色っぽい。
2人の間に南国の風が吹けば、俺たちは引き寄せられるようにキスをした。
「ん、お疲れ~」
カットの声がかかって、仕事だったことを思い出した時には、ルナはもう立ち上がって挨拶を始めていた。
…なるほど、あの表情は、商売道具ってわけだ。
長く一緒にいたのに、どうやら最後の最後になって、ルナの本気のプロ意識を見せ付けられているらしい。
「…お疲れ様でした。」
俺が後に続いて挨拶すれば、すっかり日が昇っていて。
「るーな、俺的にはこれでバッチリだけど、どう?気に入らなければ今日の夕方にサンセットで同じカット撮るけど。」
『お~、ちょうど良い感じに私達のシルエットと朝日が重なってる!じゃあこのカットはこれでオッケーですか?』
「ほいほい了解。…おーい、このカットはこれで終了、予定変更して今日のサンセットはウェディングのみ準備でオッケーだぞ!」
「「「はーい」」」
そうか、ナチュラルに、なんてはしゃいだふりして、俺がキスするのと日が昇りきってしまうタイミングまで、ルナは計算してたのか。
『ユキ君お疲れ~!』
最高に楽しそうに走ってくるルナは、本物のスーパーモデル。
「…本当に…」
『へ?』
「…いや。お疲れ様。」
本当に、この仕事、好きなんだな。
その賛辞も、今のルナにはつらいだろうと、グッと飲み込んで頭を撫でた。